米中の関税戦争とアメリカの凋落
先週14日、米トランプ政権と中国の関税戦争が一時停戦を迎えた。しかし、本格的に米中が火花を散らすのは これからだ。以下のニュース記事からも、その兆候がうかがえる。
アメリカと中国は、スイスで行われた貿易協議での合意を受けて、日本時間の14日午後1時すぎ、これまで互いに課していた追加関税を115%引き下げました。引き下げた関税のうち、24%については撤廃ではなく90日間の停止となっていて、両国は今後、アメリカが求める貿易赤字の解消などに向けて協議を進めることになります・・・
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250514/k10014805151000.html
問題は、記事の「アメリカが求める貿易赤字の解消…」というフレーズだ。
【 トランプ関税 】
実際問題として「たとえトランプが200%の関税をかけたとしても、米国内で製品を製造するのは生産コストに合わない…」と多くの識者が指摘している。工場で働く人々の平均的な賃金を比べた場合、アメリカの人件費はベトナムに比べて5倍も高い。となると、ベトナムの低い生産コストと競争するためにはベトナムからの輸入品に500%の関税をかける必要が出てくる。しかも米国内に工場をつくったところで「結局、アメリカ人は言うことを聞かないし、すぐに辞めてしまう…」と、アメリカの自動車部品メーカーの幹部は話している。
さらに、ほとんど人件費がかからないハイテク工場でも、販売を開始するまでには かなりの時間を要することになる。例えばiPhoneを米国内で製造しようとすると、アメリカ製の端末が最初に販売開始されるのは早くて2029年。しかも生産コストが高いため、端末の価格が今の3倍以上(例えば 約15万円の端末が50万円ほど)にまで跳ね上がる…とも試算されている。
そして何より、アメリカの貿易赤字は50年以上前から続く構造的な問題に起因している。その発端はアメリカのリチャード・ニクソン大統領が新経済政策発表を行った1971年、いわゆるニクソン・ショックの時にさかのぼる。
その時、アメリカ政府は突然「金ドル交換停止」を発表し、米ドルの金本位制を廃止した。その後、アメリカはドルの価値や利権を維持するためにサウジを筆頭とする産油国と「石油を米ドルで独占的に販売する」という協定を結んだ。それを境にアメリカは石油ドル本位制へと移行、米ドル以外の通貨では石油を買うことが出来ない仕組みを築き上げた。
以降、長年にわたって世界の国々は石油資源の購入のためにドルを手に入れる必要があった。そして、産油国が手に入れた巨額のドルを消費やアメリカへの投資などに回すことでドルは循環し、アメリカに還流されてきたのだ。しかし、そうしたサイクルの中で維持されてきたドルの価値が、結局はアメリカ国内産業のコスト競争力を奪い、生産拠点の海外移転を加速させた。
その間、アメリカは「ドルさえ握っていれば国家は安泰であり、貿易赤字など関係ない…」とばかりに何もせず、米国債を渡して世界からモノを貰うようになる。その結果、アメリカは塵も積もれば…というように、いつの間にか莫大な対外借金を抱えるようになっていった。
しかし、債権国が日本や中近東の産油国であれば、アメリカが少し脅すだけで米国債が大量に売られる事態には決してならなかった。ところが債権国の相手が中国になった途端、そう思い通りにはいかなくなった。
それはトランプによる今回の関税工作の結果を見ても明らかだろう。トランプが「アメリカと中国、どちらを選ぶのか…」と世界各国に圧力をかけたところ、多くの国が中国を選び、石油についても中国は世界市場から買い続けることが出来た。
その一方でアメリカは、中国からの輸入が激減したことでモノ不足が本格的に始まっている。それに焦ったトランプ政権は何度も交渉を申し入れていたのだが、中国側は「脅迫や恫喝を止めないのであれば、交渉は一切しない」と言い続けた。それで結局、アメリカが折れて「対中関税を引き下げる」と約束し、それと引き換えに中国との交渉が再開したわけだ。
【 アメリカの凋落 】
しかし、今後トランプ政権が中国と経済交渉を進めてもアメリカが抱える問題の根本が解決されるわけではない。なぜならアメリカの対外・財政赤字の主な原因は「軍産複合体」にあるからだ。アメリカの対外貿易赤字と軍事予算が、どちらも「1兆ドル」なのは偶然ではない。
結局、軍は全く以て生産性がない。言い換えれば、米軍は「中国からの借金に依存して成り立っている…」ということになる。そのことに ようやく気付いた米軍が、急に貿易赤字の問題に興味を持つようになった。しかし、関税戦争を90日間停戦したところで、この問題は何も解決しない。
また先週13~16日、トランプが中東を歴訪し、アメリカ存続のために様々な商談を行ってきた。しかし、今のアメリカは財政赤字と対外債務、それに支払いの目途が立たない社会保障費なども合わせると250兆ドル以上の負債を抱えている状況だ。報道では「サウジ、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)との間で、総額2兆ドル(約290兆円)超の投資協定を結んだ…」と発表されているが、その数字を鵜呑みにしたとしても、アメリカを倒産から守れる程の額ではない。
そのため先週、ファイブ・アイズ( = UKUSA協定:イギリス・アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)の当局と中国の代理が話し合い、その結果「アメリカの倒産(デフォルト)は避けては通れない…」との結論に至ったという。
カナダの原住民を例に挙げると、従来の伝統的な生活を送っている原住民の居住区は至って健全だ。しかし、政府が支給するおカネに依存して暮らしている居住区ではアル中や近親相姦、麻薬の乱用など、多くの社会問題が散見される。今のアメリカも同じだ。アメリカが長年にわたり働かず、世界からおカネやモノを貰い続けた結果、社会全体が堕落した。
例えば、ケネディ大統領時代の1960年代前半、アメリカ人の肥満率は全体の3%に過ぎなかった。しかし今ではアメリカ人の約7割が肥満体だと報告されている。また、現在アメリカの若者が一番なりたい職業はYou Tuberだという。それとは対照的に、中国の若者はハイテク企業のエンジニアを目指している。
結局、アメリカは いったんデフォルトして、ハードランディング(生活水準の急落など)を経験しないと問題の根本が解決されることはなさそうだ。
トランプ政権がデフォルトを宣言すれば、全ての借金の支払い義務から逃れられる。そして、アメリカを崩壊させた後はメキシコ・カナダと合体して新国家「北米共和国」を誕生させ、再出発を図ることも可能だ。ただし、その新国家では もう「米国債を渡してツケで製品を輸入する…」などということは一切できなくなる。しかし、その後はアメリカが正常化し、経済も急回復するはずだ。
まず、生産性のない動きが激減する。また中国勢も、アメリカに大型工場を建設し、設備投資をする用意があるという。そうなれば恐らく、その中国勢が建てた工場で大勢の肥満体の元You Tuberたちが働くことになるだろう。
アメリカと中国は、スイスで行われた貿易協議での合意を受けて、日本時間の14日午後1時すぎ、これまで互いに課していた追加関税を115%引き下げました。引き下げた関税のうち、24%については撤廃ではなく90日間の停止となっていて、両国は今後、アメリカが求める貿易赤字の解消などに向けて協議を進めることになります・・・
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250514/k10014805151000.html
問題は、記事の「アメリカが求める貿易赤字の解消…」というフレーズだ。
【 トランプ関税 】
実際問題として「たとえトランプが200%の関税をかけたとしても、米国内で製品を製造するのは生産コストに合わない…」と多くの識者が指摘している。工場で働く人々の平均的な賃金を比べた場合、アメリカの人件費はベトナムに比べて5倍も高い。となると、ベトナムの低い生産コストと競争するためにはベトナムからの輸入品に500%の関税をかける必要が出てくる。しかも米国内に工場をつくったところで「結局、アメリカ人は言うことを聞かないし、すぐに辞めてしまう…」と、アメリカの自動車部品メーカーの幹部は話している。
さらに、ほとんど人件費がかからないハイテク工場でも、販売を開始するまでには かなりの時間を要することになる。例えばiPhoneを米国内で製造しようとすると、アメリカ製の端末が最初に販売開始されるのは早くて2029年。しかも生産コストが高いため、端末の価格が今の3倍以上(例えば 約15万円の端末が50万円ほど)にまで跳ね上がる…とも試算されている。
そして何より、アメリカの貿易赤字は50年以上前から続く構造的な問題に起因している。その発端はアメリカのリチャード・ニクソン大統領が新経済政策発表を行った1971年、いわゆるニクソン・ショックの時にさかのぼる。
その時、アメリカ政府は突然「金ドル交換停止」を発表し、米ドルの金本位制を廃止した。その後、アメリカはドルの価値や利権を維持するためにサウジを筆頭とする産油国と「石油を米ドルで独占的に販売する」という協定を結んだ。それを境にアメリカは石油ドル本位制へと移行、米ドル以外の通貨では石油を買うことが出来ない仕組みを築き上げた。
以降、長年にわたって世界の国々は石油資源の購入のためにドルを手に入れる必要があった。そして、産油国が手に入れた巨額のドルを消費やアメリカへの投資などに回すことでドルは循環し、アメリカに還流されてきたのだ。しかし、そうしたサイクルの中で維持されてきたドルの価値が、結局はアメリカ国内産業のコスト競争力を奪い、生産拠点の海外移転を加速させた。
その間、アメリカは「ドルさえ握っていれば国家は安泰であり、貿易赤字など関係ない…」とばかりに何もせず、米国債を渡して世界からモノを貰うようになる。その結果、アメリカは塵も積もれば…というように、いつの間にか莫大な対外借金を抱えるようになっていった。
しかし、債権国が日本や中近東の産油国であれば、アメリカが少し脅すだけで米国債が大量に売られる事態には決してならなかった。ところが債権国の相手が中国になった途端、そう思い通りにはいかなくなった。
それはトランプによる今回の関税工作の結果を見ても明らかだろう。トランプが「アメリカと中国、どちらを選ぶのか…」と世界各国に圧力をかけたところ、多くの国が中国を選び、石油についても中国は世界市場から買い続けることが出来た。
その一方でアメリカは、中国からの輸入が激減したことでモノ不足が本格的に始まっている。それに焦ったトランプ政権は何度も交渉を申し入れていたのだが、中国側は「脅迫や恫喝を止めないのであれば、交渉は一切しない」と言い続けた。それで結局、アメリカが折れて「対中関税を引き下げる」と約束し、それと引き換えに中国との交渉が再開したわけだ。
【 アメリカの凋落 】
しかし、今後トランプ政権が中国と経済交渉を進めてもアメリカが抱える問題の根本が解決されるわけではない。なぜならアメリカの対外・財政赤字の主な原因は「軍産複合体」にあるからだ。アメリカの対外貿易赤字と軍事予算が、どちらも「1兆ドル」なのは偶然ではない。
結局、軍は全く以て生産性がない。言い換えれば、米軍は「中国からの借金に依存して成り立っている…」ということになる。そのことに ようやく気付いた米軍が、急に貿易赤字の問題に興味を持つようになった。しかし、関税戦争を90日間停戦したところで、この問題は何も解決しない。
また先週13~16日、トランプが中東を歴訪し、アメリカ存続のために様々な商談を行ってきた。しかし、今のアメリカは財政赤字と対外債務、それに支払いの目途が立たない社会保障費なども合わせると250兆ドル以上の負債を抱えている状況だ。報道では「サウジ、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)との間で、総額2兆ドル(約290兆円)超の投資協定を結んだ…」と発表されているが、その数字を鵜呑みにしたとしても、アメリカを倒産から守れる程の額ではない。
そのため先週、ファイブ・アイズ( = UKUSA協定:イギリス・アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)の当局と中国の代理が話し合い、その結果「アメリカの倒産(デフォルト)は避けては通れない…」との結論に至ったという。
カナダの原住民を例に挙げると、従来の伝統的な生活を送っている原住民の居住区は至って健全だ。しかし、政府が支給するおカネに依存して暮らしている居住区ではアル中や近親相姦、麻薬の乱用など、多くの社会問題が散見される。今のアメリカも同じだ。アメリカが長年にわたり働かず、世界からおカネやモノを貰い続けた結果、社会全体が堕落した。
例えば、ケネディ大統領時代の1960年代前半、アメリカ人の肥満率は全体の3%に過ぎなかった。しかし今ではアメリカ人の約7割が肥満体だと報告されている。また、現在アメリカの若者が一番なりたい職業はYou Tuberだという。それとは対照的に、中国の若者はハイテク企業のエンジニアを目指している。
結局、アメリカは いったんデフォルトして、ハードランディング(生活水準の急落など)を経験しないと問題の根本が解決されることはなさそうだ。
トランプ政権がデフォルトを宣言すれば、全ての借金の支払い義務から逃れられる。そして、アメリカを崩壊させた後はメキシコ・カナダと合体して新国家「北米共和国」を誕生させ、再出発を図ることも可能だ。ただし、その新国家では もう「米国債を渡してツケで製品を輸入する…」などということは一切できなくなる。しかし、その後はアメリカが正常化し、経済も急回復するはずだ。
まず、生産性のない動きが激減する。また中国勢も、アメリカに大型工場を建設し、設備投資をする用意があるという。そうなれば恐らく、その中国勢が建てた工場で大勢の肥満体の元You Tuberたちが働くことになるだろう。
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